fun復刻:男を思い通りに操る術、教えます。

そこは危ないって知っている。
自分と同じような虫たちが、いっぱい集まって、そして魂を奪われている。
どこからともなく、次から次へと、虫が飛んでくる。

青白く灯っている。

誘蛾灯のすぐそばまで寄っても、大丈夫。
5cmでも離れていれば大丈夫。

一度見てしまうと、もう目を離すことができない。
近くで飛んでいると楽しい気持ちで胸が一杯になる。

危険と隣り合わせのスリルもあるし
非日常の高揚感が癖になりそう。

たまに遊びに来ても、大丈夫かな？

いえ。違うんだ。
危ない場所だって気づいたから、背を向けて、必死に逃げた。
あの場所に戻ってはいけないんだと自分に言い聞かせて。

目を瞑って飛ぶ。
誘蛾灯の青白い光が見えたら、そっちに飛んでしまうから。
安全な場所まで、飛んで逃げないと。

振り返ったら負けだ。
思い出したら負けだ。
あの場所には、何もないんだ。



ほら。
僕は逃げられた。
焼き殺されずに逃げてきた。

近くまで寄って、誘蛾灯に寄せられる虫たちと一緒に飛んだのに
ちゃんと僕は逃げて帰ってきた。

大丈夫なんだ。

今夜も、誘蛾灯を見に行こう。
バカな虫が焼き殺されているのを見に行こう。

僕は、ちゃんと逃げられるんだ。
昨日も、近くまで寄って楽しんだけど、ちゃんと逃げられた。
焼き殺されるバカとは違う。

今日はもう少し近くまで寄ってみよう。



あ。
危ない。

誘蛾灯が罠って知ってたのに。
まさか、誘蛾灯に近づいた僕を、網で捕まえるなんて・・・



後悔しても遅いんだよ。

今、君は虫かごに捕らえられている。
誘蛾灯の脇に吊された虫かご。

逃げることも、焼き殺されることも、なにもできない。
ただ意味も無く陳列されているだけ。

あはは
あっははは


誘蛾灯のそばだけど安全だよ。
マゾの特等席だね。