小説 「嵐の夜に」 その4
2007/06/19(火)
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読み返してみると、ほぼノンフィクションです

懐かしいやら、恥ずかしいやら。
本当は、明日アップするつもりの記事ですが、気が変わりました。
ということで、明日(20日)は、更新なしです。

待ち合わせの駅につくと、テッチャンからメールの返事がきた。
「素直な女に子になりたいなら、いっぱい罰をあげるよ。 少しの罰だったら、さっちゃんは直らないから。」
いつものテッチャンとは、ちょっと違う雰囲気のメール。 ちょっと違和感を感じたけど、どうせ服装からして、いつもと違うんだから、それくらいの違和感は仕方がない。
「はい。 そうしてください。」
とメールを書いた。 送信すると同時に、テッチャンが改札口に見えた。
私に近寄りながら、携帯を見ている。 私からのメールが着信したようだった。 メールを確認しおえると、すぐに携帯を閉じた。
「こんにちは。 素直なさっちゃん。」
笑顔のテッチャン。 照れて俯いている私。
「うん。」
そんな返事をするだけで、精一杯。
「素直じゃなかったら、どんな罰にしようか?」
嬉しそうな笑顔で、私の顔を覗き込む。 何も喋れず、赤い顔で俯き続けているしかなかった。
「ごめん、、 調子に乗っちゃったみたいだね、、、」
首を縦に振りながら、手をつないだ。 申し訳なさそうな顔をしているテッチャンを見て、私も笑顔になった。
「似合ってないでしょ?」
服のことを褒めてもくれないと、とても不安になってしまう。 自信ないし。 いつもと違うし。
「こら。 素直じゃない。 似合ってるって言って欲しいくせに。」
テッチャンの笑顔。 私もつられて笑顔になった。
・・・ そう。 そういうふうに、明るく茶化してくれるのが、一番嬉しかった。
「似合ってる。 似合ってるよ。 高校生最後の日になっちゃったけど、さっちゃんがスカート履いてくれて、嬉しいよ。」 本当に嬉しそうな笑顔。
「で、でもさ、卒業式のスーツだって、、、」
そう。 卒業式のスーツも、スカートだった。 小さく手を振ってあげたのに、 忘れちゃったの?
「ち、違うって。 そうじゃなくって、、、 俺とのデートで、ってことだよ。」
相変わらず嘘が下手なテッチャン。

今までと違う大学生生活。 不安も期待も、今までとは違う。 頼れるのは、テッチャンだけ。
テッチャンの勧めてくれる服を試着して、化粧品を試して、アクセサリーも買った。 テッチャンからのプレゼントも、いっぱいもらった。
そんな短いスカートなんて、履けないよ。 って言った。 けど、去年とは違う。 試着した姿をテッチャンに見てもらう。 喜ぶテッチャンと、それを見て喜ぶ私。
足、筋肉質だから・・・ できればロングスカートがいい・・・
スポーツ自慢少女だった小学生の頃から、何も変わっていない私。 そんな足でも、ミニスカートを勧めるテッチャン。
「外国人のモデルみたいだから、大丈夫だよ。」
そんなお世辞を言って、今まで着たこともないような服をいっぱい買わされた。
お財布の中には、もう、残り少なくなってきた。
でも、テッチャンは、買い物を続け ている。 少し大人っぽい服が並んでいるショップ。 さっきも来たのに、もう一度戻ってきた。
テッチャンが気になる服があるのかな?って追いかけていった。

テッチャンが最後に入った店は、スポーツ用品店。 やっぱり、私に似合う服は、スポーツ用品店なの?なんて冗談を言いながら、店の奥に入っていった。
一年ぶりのデート。 一年前のデートは、デートといっても、ただ喧嘩しただけ。 あとは変なキスをしたことだけ。 一年ぶりなのに、ずっと一緒にいた恋人とのデートみたいだった。
テッチャンが嬉しそうに指差したもの。 それは、ピンクと白のテニスウェア。 短いスコート。
試着したら、ぴったり。 テニスサークルに入ろうと思っていたし、ちょうど欲しかった。ダークカラーのテニスウェアを買うつもりだった。 でも、テッチャンは、これが気に入ったみたいだった。
「欲しいけど、高くて買えないよ。」
・・・この値札は、定価だよね。 値引きした値段は、、、
見つからなかった。 ちょっとがっかりした私。 財布からお金をだしてくれたテッチャン。
「もういっぱい買ってもらったし、、、」
きっと10万円くらい出費させてる。 嬉しそうにお金を出し続けるテッチャン。
・・・ だけど、もう、これ以上はダメだよ。
「いいの。 このために、一年のときからバイトしてたんだから。 このために、、、」
「ありがとう。 テッチャン。」

ふたりともお金がなくなってしまった。 デートなんだから、渋谷なんだから、何か美味しいものでも食べたかったけど、コンビニ弁当を買って帰ることにした。 帰るのは、テッチャンの部屋。
このまま帰っても良かったのかもしれない。 でも、デートして食事もしないなんて、つまらない。
ふたりで2000円しか持っていないと、コンビニ弁当とお菓子くらいしか買えなかった。
初めて入るテッチャンの部屋。 テッチャンの部屋に入る初めての女性。
そんな緊張感を肌で感じながら、部屋に入る。 お邪魔します、、、なんて言ったけど、テッチャンは黙ってた。
あんなに色んな服を買ってくれたテッチャンなのに、部屋には電子レンジもない。 冷蔵庫とトースターだけ。 テレビもない。
「私の服なんて買う前に、、、」
悪いことしちゃった。 調子に乗りすぎた。 テッチャンのお金、いっぱい使っちゃった。
「いいんだって。 さっちゃんに可愛い服を着せたかったんだから。 俺の気に入った服を着てくれているさっちゃんを見れるんだったら、テレビなんて要らないよ。」
真剣に言っている。 とっても変なことを、真剣に言っている。 笑ったらダメ。 でも、笑いがこみ上げてきちゃった。 幸せな気持ちに後押しされて、笑いがこぼれた。
「あっははは。 そんなに? そんなに私のこと、好きだったの?」
「そうだよ。 お前だって、そうなんだろ? 素直になるって言ってたくせに、素直になってるのは俺だけかよ。」
「テッチャンだって、素直じゃないよ。 素直に好きって言えないなら、罰を与えないと、、、」
そういってテッチャンの体を抱きしめた。 テッチャンも、私の背中をきつく抱いた。
「お前にも、、、罰を、、、」
私はテッチャンに罰を与えた。 テッチャンも私に罰を与えた。 何年間も素直になれなかった罰を。

「テッチャンの一番好きな服、どれなの? 着てあげようか? 思い出にしてあげる。」
「今、ここで、着てくれるのか?」
明らかに興奮してるテッチャン。 その興奮に驚く私。
「うん。 そのつもりだけど、、、変なこと、考えないでよ。」
変なこと、って言ったということは、私が変なことを考えていたという証。
・・・ テッチャンの好きな服を着て、それから、テッチャンに脱がされるのかな?
脱がされるために、服を着替えるなんて、恥ずかしいな、、、
テッチャンは、真剣に悩んでる。 今まで、こんなに真剣な顔を見たことがなかった。
もっと大切なところで、こういう顔を見せてくれれば、ちゃんと惚れてあげるのに。
「まだ悩んでるの? 最終候補は、どれとどれ?」
「うん。 決まってるんだけど、それ、着て欲しいって言いづらいんだ、、、」
「あ。 あの短いやつでしょ。 入学式の次の日に着たらって言ってた、、、」
一番高かったスカート。 ショップの店員にコーディネートしてもらった服。 上下に4万円くらいした服。 ちょっと短すぎるスカートが気になったけど、私もテッチャンも一番気に入っていた服。
「、、でも、、、あれは、、、」 あれは、皴にしたくないって言おうと思った。
その瞬間、私の目の前に置かれたのは、テニスウェアだった。
「お前、やっぱ、こういうの着てるほうが、似合ってるし、、、かっこいいから、、、」

