背徳 その1
2008/02/19(火)
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久し振りにフィクション小説に挑戦です。
貞操帯ネタですので、嫌いな方は読み飛ばしてくださいね

内容的には、この前のショートストーリーの続きです。
そちらを読んでないかたは、まずはこちらから。
それから、念のため言っておきますけど・・・
フィクションですからね。 そのことをお忘れなく


私の住むアパートの前に赤いカローラが止まった。
そして、私の携帯に彼からの電話が入った。
今日から3日間、那須の貸別荘にふたりきりの旅行。 年末から正月までなかなか会う時間が取れなかった分、正月休みの残りをふたりだけで過ごす予定。
こんな時期に那須に行っても、特に見るものも遊ぶところもなさそう。
それに、貸別荘には温泉が引かれているというので、別荘から出ないで二人きりの時間を過ごすことになりそうだった。
温泉しかないところで、二人きりで過ごす3日間。
期待に胸が膨らむのはあたりまえ。
きっと、彼もいろんな期待をしているはず。
窓から見おろすと、カローラの窓から顔をのぞかせている。
彼に手を振りながら電話にでた。
『準備できてるから、すぐ行くよ。』
すぐに電話を切って、ダウンジャケットを羽織った。
階段をおりると、笑顔の彼が待っていて、私のキャリーケースを持ってくれた。
彼の車には、大きなクーラーボックスと着替えが入ったボストンバックが載せてあった。
私の荷物をトランクに積んでもらうと、小さなハンドバックだけを持って助手席に座った。
ダウンジャケットの下は、彼の好きなポロシャツ。
車に乗って、ダウンジャケットを脱ぐと、彼の視線を強く感じた。
わざと胸のボタンを開けているから、鎖骨と胸元がよく見えるはず。
そして、ネックレスが光っているのも見えるはず。
『じゃあ、出発しようか?』
彼の楽しそうな声が、私の気持ちを明るくした。
ダッシュボードの中に詰め込んであるCDの中から、お気に入りのCDを探した。
その日の気分や天気で音楽を選びたい私と、いつも同じCDばかり聞きたがる彼。
古い曲が好きという彼は、歌詞を丸暗記しているCDを選んでは、歌いながら運転する。
CDを聞いているのか、彼の歌声を聞かされているのか・・・
走り始めてすぐにコンビニを見つけた。
高速道路に乗る前に、飲み物とお菓子を買うことにした。 駐車禁止の大通りなので、彼
は車に残り、私だけがコンビニに向かった。
数分後、飲み物とお菓子のはいったビニール袋を提げて、私が車に戻った。
助手席のドアを開けて、彼にビニール袋を渡した。
彼は、袋の中からコーラを見つけると、キャップをあけて一口飲んだ。
助手席のドアを開けたまま座ろうとしない私を見上げ、何度かマバタキをした。
『ちょっと待ってて♪』
といって、ハンドバックから封筒を取り出した。 既に宛先が書いてあり、切手も貼ってある。
でも、中身は空っぽ。
不審そうに見ている彼に封筒を渡して宛先を見せた。 封筒には私の家の住所と名前が書かれていた。
『なにこれ?』
意味が分からずに封筒の裏や中を繰り返してみる彼。
そんな彼をよそに、私はネックレスを外した。
そして、そこに掛かっ ていた鍵をネックレスから外した。
鍵。
それは、彼の貞操帯の鍵。
彼は、小さな声で『あっ。』っと呟いた。
私の悪だくみに気づいて、あわてて何かを言おうとして、そして一瞬で無駄だと悟ったようだった。彼の見ている前で、封筒に鍵を入れて、シールの封をした。
『いい子で待ってるのよ。』
子供に言うみたいな言い方で、彼をからかった。
コンビニの入り口にある郵便ポストにゆっくりと歩いていく。
封筒をポストの投函口に・・・
車の方を振り返ると、彼が困惑した表情でこちらを見つめている。
封筒をゆっくりとポストに入れる。
手を投函口の中までいれて、そして手を引き抜く。
さっきまで手に握られていた封筒は、もう、ポストの中に落ちてしまった。
これで、帰宅するまで鍵をあけることはできない。
再び車に乗り込んだ私に、彼は小さな声で呟いた。
『あのさ、、、』
困惑の表情を浮かべたまま、慎重に言葉を選んでいる彼。
『いいよ。な〜に?』
って言って、彼の鼻の頭をチョンって押してあげた。
『合鍵って、持ってないよね。』
彼が顔を赤くしてこちらを見つめる。
『もってるはずないでしょ?』
と微笑みながら言った。
『持ってたら、何のために封筒を用意したのか分からないでしょ?』
彼の顔が曇っていく。
2泊3日の旅行だからって何か大きな期待をしていたようだ。
旅行の初っ端に、その期待が根っこから折られてしまった彼は、寂しそうな顔をした。
年末に貸別荘を予約したとき、「ご褒美をあげる」って言ったことを、彼は解錠だと思っていたから。
『今日は、楽しい旅行だからね、点数をいつもの2倍にしてあげる。』
その言葉に、彼の顔の曇りが少し薄らいだ。
『旅行が終わるまでに、100点になれるかな?』
少し顔を赤めながら聞く彼。
笑顔でうなずく私。
『あと32点だもんね。 頑張ろうね。』
って言いながら、意地悪な考えが頭によぎる。
彼は、私の考えも知らずに、笑顔を浮かべ始めていた。
『でもさ、点数が2倍なのは、減点の時もだからね。』
その言葉に、彼の笑顔が一瞬で凍った。
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