背徳 その3

クーラーボックスの食材を冷蔵庫に移し終わた私は、キャリーケースを開けて首輪と小さな南京錠を取り出した。
『ねえ。 首輪してあげるから、こっちに来て。』
別荘は2階建てで、1階はリビングキッチンと温泉のお風呂があった。 2階を見に行った彼がいつまでも降りてこないので、大きな声で呼び寄せた。
『2階にはさ、寝室がふたつのとテラスがあるよ。』
4人家族用の別荘は、わたしたちふたりには持て余す広さだった。
『そんなことよりさ、これだよ、これ。』
大きな声で彼に話しかけながら、黒い首輪を彼に見せる。
『温泉に入ってからじゃダメ?』
って聞く彼。
『いいよ。 さきに温泉にしようね。 一緒にはいろうよ。』
彼はわたしのそばに寄ると、両手を広げた。
私を抱きしめたいという意思表示。
『もう・・・』
って照れながら、彼の胸に抱かれた。
そして、ポロシャツの下につけていたブラを外して、もう一度、彼に抱き寄せてもらった。

結局、温泉に入る前に、彼に逝かせてもらった。
貞操帯を着けている彼は、私を逝かせることはできても、自分自身はまったく感じることができなかった。
『これじゃあ、東京でしてるのと変わらないよ。』
私が気持ちよく逝ったあと、彼の鼻を押してあげると彼は呟いた。
『いいじゃない。』
冷たく言い放って、リビングのソファーで浅い眠りについた。

浅い眠りだと思っていたら、起きた時には深夜だった。
となりのソファーには、深夜テレビを眺めている彼がいた。
『起きた?』
裸の体に毛布をかけたままの私。
首筋に違和感を感じたて手を伸ばすと、それは彼のために持ってきた首輪だった。
『もう! これは君のだよ。』
って言って首輪をはずそうとしたが、首輪には小さな南京錠が掛かっていた。
『えっ。』
私は焦って起き上がると、毛布を抱えたままお風呂場まで走って、鏡で自分の首を見た。
首輪は、南京錠が掛けられていて、外すことはできなかった。
『ごめん。 ちょっとした冗談だよ。』
そうじゃないの。
そうじゃないのよ。
心の中で繰り返しつぶやく私。
南京錠の鍵は、さっきの郵便ポストに入れた封筒に一緒にいれてしまっていたから。
でも、私に首輪をつけて後悔することになったのは、彼の方だった。

『何点減点したら良いと思うの?』
正座になって私の足元で謝り続けている彼。
『せっかく楽しいことしようと思ってたのに・・・』
楽しいことっていうのは、彼のことをペットにすること。
『明日も明後日も、ずーっと反省させてあげるから・・・』
私は、自分のキャリーケースに予備の鍵が紛れ込んでいないか確認した。
鍵は見つからなかった。
キャリーケースにしまってあった犬用の食器。
明日は、一日中彼のことをペットとして扱うつもりだった。
犬用の食器にチャーハンを盛ってあげるつもりだった。
『ごはん一粒残したら一点減点』って言って、食器を舐めさせるつもりだった。
四つん這いでの食事で、涙を流すのか見てみたかった。
2回目の食事は、目隠しをして同じように食器を舐めさせたかった。
ごはん粒を残さないように、何度も何度も舌で食器を舐める彼を笑いたかった。
『本当の犬みたいね。』って笑われながら食事をする彼を、写真に撮りたかった。
3回目は、さらに『5分間で』って言って彼を焦らせたかった。
犬用の食器に必死になって舌を伸ばす彼のアソコが、貞操帯の中でどうなっているか知りたかった。
残したごはん粒を、彼に数えさせたかった。
そして、いっぱい減点された彼の頭を、優しく撫でてあげたかった。
『あ〜あ。 楽しみにしてたのに・・・』
犬用の食器をキャリーケースにしまいながら呟いた。
彼は、犬用の食器で、四つん這いになって食事する自分の姿を想像しているようだった。



