続・背徳 その4
2008/03/02(日)
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もう少しだけ続きます。
この次は、創作100%の小説にしようかな?
この次は、創作100%の小説にしようかな?

次の週末は、ふたりで映画を見に行った。
胸元にぶら下がっている鍵に、彼の視線が刺さっていた。
早く家に帰りたい彼を焦らすように、私はショッピングを楽しんだ。
いろんなショップに足を運んだけど、結局買ったのは、ブラウス一枚だけだった。
駅を降りてから家までの道のり、彼は一言も声を出さなかった。
家に着いたころには、もう暗くなっていた。
『あのさ、靴の裏でって、本気なのか?』
アパートの階段を上がっている時に彼が口を開いた。
私は黙って頷いた。
やっぱり可哀そうかな、という気持ちが心の中で広がっていった。
『ずーっと考えていたんだけど、、、』
彼は深刻な顔で言った。
『俺たちって、、、』
何か嫌な予感がした。
彼の手をぎゅっと握ったけど、彼は握り返してこなかった。
『俺たちって、おかしいよ。』
断定的な言い方をされた。
『じゃあ、どうするの?』
その聞き方は、別れを匂わせた。
売り言葉に買い言葉。
彼の次の言葉次第では、すべてが終わる。
そんな会話だった。
『なあ。 普通に愛し合いたいって思わないか?』
彼が真剣な眼差しを私に向けた。
『私はね、これでも真剣なんだけど。』
階段を登り終え、私の部屋の前に着いてしまった。
鍵を開けてドアを開けた。
部屋に入って靴を脱いでいても、彼は玄関の外に立ったままだった。
私を不安にさせているのに、何も言葉にしない彼。
『じゃあ、これ、持って帰ったら?』
そう言って、貞操帯の鍵をネックレスから外して、玄関の外に放り投げた。
そして、部屋のドアを閉めて、チェーンロックを掛けた。
ドアの鍵をかけなかったのは、彼に最後のチャンスを与えたつもりだった。
チェーンロックだけなら、ドアを開ければ会話できるから。
しかし、私の期待は裏切られた。
階段を下りていく足音が聞こえた。

10分くらい経った。
放り投げた鍵を彼が拾って帰ったのか気になって、玄関のドアを開けると、そこに彼が立っていた。
少し驚いた私。 まだ私と目を合わせようともしない彼。
鍵は、私が投げた場所に落ちていた。
『本当に真剣なのか?』
彼が小さな声で言った。
『私、こんな愛し方しかできないんだよ。 嫌いになったでしょ?』
落ちていた鍵を拾って、彼に渡そうとした。
『そうじゃないんだ。 そうじゃないんだ。』
彼が繰り返した。
『心の底から愛してるよ。』
そう言った彼の目から涙が流れた。
『でも、チカは、面白がっているだけなんじゃないのか?』
少し震えた声だった。
『入って。 ちゃんと確かめさせてあげるから。』
そういって彼の手を引っぱって、家の中に引き入れた。
ドアを閉めて鍵をかけると同時に、優しいキスをした。
『これでも、まだ心配なの?』
そう言って、もう一度キスをした。今度は少し長くいキスをした。
『いっぱい苛めたくなるけど、それが嫌なら、もう止めるよ。』
さっき拾った鍵を、彼の掌に握らせた。
『じゃあ、普通にエッチしよっか。』
やっぱり、やりすぎだった。
もっとゆっくりと壊していけば良かったのに、、、
でも、我慢できなかったから、仕方ない、、、
後悔しても、もう遅いのかもね、、、
でも、もう一度だけ、、、
もう一度だけ、、、
もうひとつだけ、、、試しておきたいことがあった。
『靴で逝かせるって言うのはさ、やっぱり、やりすぎたと思うよ。』
そう言って彼の顔を窺った。
『本当に、、、ごめんね。』
さっきまでの雰囲気を断ち切るように明るい笑顔を見せながら、彼に手を差し出した。
『やっぱり鍵を返して。 最後は、私が開けてあげたいから。』
そう言って、彼から鍵を取り戻した。
少しだけ躊躇した彼だけど、彼の望んだ雰囲気に近づいていることで、彼は油断してしまった。
鍵をポケットにしまって、さらに明るい笑顔を見せた。
『でもさ、50点減点っていうのはさ、まだ有効だったんじゃない?』
彼の顔が、瞬く間に赤くなっていく。
『100点になったら、普通に愛し合おうよ。でも今は、、、』
そう言って記憶をたどった。
『あと86点じゃなかった?』
舌をベーっと出して、彼に満面の笑みを向けた。
これでダメだったら、仕方ない。 これで彼が怒るなら仕方ない。
そう割り切った最後の賭けだった。
そして、その賭けに勝ったのは、私だった。
彼は、両手を強く握って、顔を伏せた。
耳が赤くなっていた。
それは、怒りとか悲しみとかではなくて、既に心の中に巣くっている被虐の血が流れ始めたためだった。
なんだ。 もう、とっくに堕ちていたのね。
彼の被虐。私の余裕。
一瞬にして、ふたりの間の空気が色づいていく。
『もう、靴の裏で逝かせるなんて、言わないよ。』
余裕の笑顔で歯切れよく言った。
『私からはね、もう二度と言わないよ。 私からは、、、ね。』
その言葉が意味しているのは、彼が懇願することを期待しているということ。
『そうだ。 普通に愛し合いたいって言ってたよね。』
ブラウスを脱いで、タンクトップ姿になった。
『あは。』
私は笑いを抑えられなかった。
彼の心は、完全に堕ちていた。 それに気づいていなかっただけだった。
気づいてしまえば、もう、何も心配することはなかった。
欲しいものを手に入れた喜びを全身で表現した。
彼に飛びつき、笑顔のままキスを奪った。
『もう逃がさないんだから。』
キスをしようと唇を寄せると、彼も唇を寄せようとした。
それに気づいた私は、唇が触れる寸前で一旦動 きを止めて、クスっと笑ってからキスをした。
たったそれだけのことでも、彼の体がピクリと震えた。
彼の服を脱がし、私の服も脱がせてもらった。
そして、裸で抱きしめあった。
貞操帯を強く握りしめながら、最後にもう一度キスをした。
『これで、いいんだよね。』
少しトーンを抑えた声で、彼を直視しながら聞いた。
彼は、ゆっくりと頷いた。
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