目覚め その1
続・続・背徳って題名にしようかと思ったんですが、「目覚め」というタイトルにしました。
何に目覚めるの?って聞かないでくださいね。
想像してくれると嬉しいですね。
貞操帯を装着させてから、もうすぐ2か月。
そろそろ外してみたいという思いが私の胸の中で渦巻くはじめていた。
いつ?
どうやって?
どこで?
一緒に食事に行くたびに、彼に希望を聞いた。
でも、それは希望を叶えてあげるためではなく、ただ単に無駄な夢を抱かせるためだけに。
どうしても我慢できないと真剣な顔で相談されたことがキッカケで、一泊旅行に出掛けることになった。
行先はどこでも良かった。 ただ時間を気にせずに二人きりで過ごせれば、それだけで良かった。
二人で旅行のパンフレットを集め、彼の家でインターネットで調べながら行先を考えた。
貸切風呂のある温泉、シーズンオフの観光地、海の幸の美味しい海辺のホテル…
『なあ。 俺の部屋でもいいんじゃない?』
『だめだよ。大切な想い出になるんだから。』
面倒くさいことを嫌がる男の性なのか、彼は私の話を本気で聞こうとしなかった。
『近くでもいいから、どっか出かけようよ。』
房総や伊豆のパンフレットを彼に見せながら、わざと拗ねたような声で言った。
『でも、そのパンフレットって…』
私が見ていたパンフレットは、4月〜6月の日程しか紹介されていなかった。
4月だとしても、まだ一か月も先の話。 私は気付かなかったけれど、彼にとっては死活問題のようだった。
『もう、我慢できないんだ…』
彼の真剣な顔。 プレッシャーを感じた私。
『へえ〜』
おどけた顔で笑ってみせたけど、彼は真剣な顔で一点を見つめていた。
硬い表情のまま、何か思いつめているようにも見えた。
『週末、もし暇だったらさ…』
もう彼が限界なのは分かっていた。
ふたりっきりで部屋にいるだけで理性が保てなくなりそうなのは、見ているだけでも手に取るように分かったから。
『いいよ。 もうそろそろ限界だもんね。』
『うん…』
『どこか近くのホテルでも行こうか?』
『もったいないよ。』
『でも、旅行に行くよりも安いし…』
こういうところでケチなことを言う男は嫌い、と言いたかったけど、彼の言いたいことも分かった。
どこかに出かけたいのではなくて、貞操帯を外してエッチすることだけが彼の願望だっていうことは、彼の発する一言一言に込められている気がした。
エッチだけが目的というのは、あまりにも寂しすぎる。
でも、そういうふ うに追い込んまれてしまったんだから、それを責めるつもりにもなれなかった。
『じゃあ、金曜日の夜から二泊できるかな?』
『二泊?』
『一泊目はね、気が狂うほど焦らしてあげる。』
二泊するということは、一泊目には貞操帯を外してあげないということ。
『・・・』
そのことを理解した彼の表情が、強張ったまま固まった。
『それでね、二泊目に外してあげるよ。』
今度は、彼の表情が緩み、少し頬を赤なった。
『うん。』
もうすぐ外してもらえると分かったせいか、少し明るいトーンの返事だった。
『でももし一泊目にね、私の言いなりになってくれなかったら、外してあげないってのは楽しいんじゃないかな?』
『逆じゃダメかな? 一泊目に外してくれれば、二泊目は何でも言うこと聞くってことで…』
どっちにしてもあと3日か4日で解放されると分かったせいか、急激に表情が明るくなっていった。。
『一泊目は金曜日だから、仕事の後でしょ?』
『うん。』
『なんか疲れてるかもしれないよね?』
『俺は大丈夫だけど。』
話を進めていくうちに、ウキウキしてきた彼が可愛かった。
貞操帯の 鍵はネックレスにぶら下げられたまま、彼からは見えないブラウスの内側で揺れていた。
ブラウスのボタンをひとつ外し、彼に見えるようにしてあげた。
『これ、欲しいでしょ?』
彼の眼差しは、鍵に釘付けになった。
『うん。』
『金曜日は、どうやって逝かせて欲しいの?』
『チカの好きなように…』
『そういう言い方して、この前はオアズケにされちゃったよね。また同じ失敗したいの?』
無言で唇を噛む彼。 好奇心でいっぱいの眼差しを向ける私。
『靴で、、、踏んでください、、、』
彼の頬を撫でながら、少しずつ意地悪な笑顔を作っていった。
『それだけ?』
『踏んで、、、逝かせてください、、、』
『逝かせてあげるのは一度だけだよ。 そのあと、すぐに貞操帯をつけるけど、いいんだよね?』
『は、はい。』
『じゃあ、やっぱり土曜日ね。 金曜日は、いっぱい焦らしてあげるね。』
彼が少し悔しそうな表情を浮かべた。 たった一日の違いも耐えられないくらいだと思うと、嬉しくて楽しくてたまらなくなった。
そういう表情を見せられると、どうしても意地悪を言いたくなるのが私の癖。
彼も十分知っているはずなのに、、、と思うこともあるけど、どうやらわざとじゃないみたいだった。
『土曜日にね、君専用の靴を買ってあげるから。』
『俺専用って?』
『君のアソコを踏むための靴ってことでしょ?』
『そ、そういうのは、、、』
『 汚れた靴じゃ可哀そうだからねぇ。』
『うん。 それはそうだけど、、、』
『通勤で履いてるブーツでもいいってこと?』
『そ、それは、、、』
『貞操帯を外す日だけしか履かない靴、買っておこうよ。 外では履かないようにするよ。』
『あのさ、、、』
『その靴を見ただけで、ドキドキするようにしてあげるね。』
彼にしゃべらせる時間を与えなかった。 しゃべるのに十分な時間を与えても、思考する余裕がないことくらい一目でわかるほどだった。
いつもより1、2秒遅れて、私の言っている言葉の意味を理解した彼。そのたび、彼の耳は真っ赤に染まっていった。
『文句があるなら、普段履いてるブーツってことにするけど?』
『文句を言ってるんじゃなくて、、、』
『じゃあ、決まりでいいでしょ?』
『はい・・・』
私はテーブルの上に広がったパンフレットをまとめ て、ごみ箱に押しこんだ。
そしてインターネットでホテルの検索を始めた。



