ショートストーリー その5
2007/11/12(月)
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男友達と旅行に行っています。

え〜。 なんで〜。
私によってMにどっぷり浸かってしまったの彼が、SMプレイみたいなことをしたいと言い出した。
元はと言えば、私が少しずつMっぽくしてきたのだから、ダメって言ったら可哀想。
女王様って呼ばれるの?
そんなの嫌だな・・・
そんな風に呼ばれたら、笑っちゃうかもしれないよ。
彼から渡された道具をみると、乗馬用のような鞭があった。
その鞭を手にとってみる。
軽くて玩具のようなものと思っていたら、本革のような匂い。
あ・・・
こいつ・・・
本気でSMしたいんだ・・・
私は、そんなこ と、望んでいない。
奴隷役の彼が望んでいること。
女王様役の私が望んでいないこと。
そもそも、前提がオカシイ。
でも、今まで言い出せなかったことを勇気を振り絞って告白したんだろうから・・・
じゃあ、ちょっとだけなら・・・
ソファーに浅く腰掛け、鞭を軽く振ってみる。
ヒュっ
空気を切るような音。
彼の顔が少しひきつった。
「ねえ、そんなところに立ったままじゃ、はじめられないでしょ?」
女王様らしく振舞おうと思っても、笑ってしまいそうになる。
彼は、私の表情を見て、楽しんでいると勘違いしているみたい。
ん? 勘違いじゃなくて、もしかして楽しいのかも?
ううん。 やっぱり、楽しくない。
女王様って言われると、どうしても風俗嬢になった気分。
彼が私の前で土下座する。
私の靴の先に、彼の後頭部がある。
靴のまま、頭に足を乗せてみる。
こんなことしても、大丈夫かな?
でも、彼は、そのままじーっとしている。
小さく震えている。
彼の背中に、軽く鞭を下した。
手首でスナップを利かせただけ。
ピシっ
そして、足に力を入れて、彼の額が床に着くまで押し込んでいく。
「私にこんなことさせて、途中でギブアップしても許してあげないからね。」
脇腹あたりを鞭で撫でる。
ここを叩いた ら、やっぱり痛いかな?
やっぱり、女王様って嫌だな。
もっと普通に意地悪してあげたいな。
あ。 でも、アソコを固くしてるみたい。
踏まれて鞭で叩かれただけなのに、息も荒いし。
こんなマゾにしちゃって、本当にごめんね。
もっと叩いてあげればいいのかな?
どうしても、鞭を振ることが嫌。
痛みを与えることは、好きじゃない。
好きじゃないことをしている女王様。
好きなことをしてもらっている奴隷。
やっぱりオカシイ。
どこか間違ってない?
鞭を投げ捨てて、彼の顔を上げさせた。
彼の前にしゃがみ、顔を両手で優しく抱きしめる。
そして優しくキスをした。
だって、愛してるんだよ。
痛いことなんて、嫌だよ。
少し涙が流れた。
恐れられたいんじゃないよ。
愛してもらいたいんだよ。
彼の目からも涙が流れる。
彼の両手が、私の肩を抱きしめる。
私の両目の下あたりが、彼の鎖骨のあたりにピッタリとはまる。
ここが、いつもの定位置。
ここにいると、お互いが安心する場所。
ごめんね。
そう言って、優しく抱きしめてくれた。
うん。
でも、許してあげないよ。
鞭の痛みよりもっと強烈な・・・
皮膚の傷のように時間が消してしまうような易しい傷じゃなくて・・・
二度と癒えることのない傷を残してあげる。
満面の笑みを浮かべたまま、心を串刺しにしてあげるね。
お・し・お・き・だよ。
彼の固くなったプライドの象徴を握って、上目づかいで微笑む。
「靴のまま踏まれて、こんなになっちゃって・・・」
微笑みながら、視線だけが鋭くなっていく。
そして、顔から笑いが消えていく。
私の笑顔を見ながら、情けなく笑っている彼。
私の表情の変化についてこれない。
少し怒ったような顔になる私。
情けない作り笑顔でオドオドする彼。
「変態だね。」
少しも笑わずに、ゆっくりと言った。
緊張した空気。
「鞭なんて使わなくても、私の言いなりでしょ?あははは。」
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