ショートストーリー その6
2008/02/13(水)
prev:
next:

ねえ。
もうすぐバレンタインデーだね。
甘いもの好きじゃないって言ってたけど、チョコ以外に欲しいものがあったら教えてくれる?
ほら。今度の週末くらいしか買いに行く時間ないんだから・・・
バレンタインの一週間前。 彼に渡すプレゼントが決まっていないのは、私がちゃんと考えてなかったから。
欲しいものないの?
じゃあ、私が決めちゃってもいいかな?
じゃあね、土曜日に新宿でショッピングしようよ。
それまでに欲しいもの決められなかったら、私が決めるけど、いいよね。

もともとMっ気の強かった彼。
エッチの時に、私のベルトを首輪みたいに彼の首に巻いたのは、去年のクリスマス・イブ。
首輪に見立てたベルトを楽しそうに引く私。 うろたえる彼。
だけど、普段とは比べ物にならないほど興奮している彼。 それは隠しようがなかった。
嬉しいって気持ち、一生懸命隠してる彼。 心の中を見破る私。
クリスマスから一か月が経って、久し振りのお泊りデート。
大きな駅の改札口で待ち合わせ。 クリスマスの時と同じワンピース。そしてベルト。
今日も、これ、つける?
って、腰のベルトを指さす。
駅前の人ごみの中で、いきなり彼のM心を刺激する。 彼にしか分からない言葉で。
その一言で、彼の頬が紅潮する。 私の期待通り。
デパートの横を抜けて東急ハンズに向かう。
ハンズのエントランスでは、チョコをつくるための道具に、数人の女性が足を止めている。
やっぱりさぁ、バレ ンタインデーはチョコがいいのかなぁ?
それとも、なにかイイモノ、探そうか?
そして、ペット用品売り場に着く。
探していたのは、犬用の首輪。
人間の首にぴったりのサイズを探す。
柔らかそうな革首輪を手にとって、意地悪な顔をつくる。
彼を探そうと店の中を見渡すと、猫愛好家しか買わないような、猫のデザインが施されている小さな鏡が壁にかかっているのが目に入った。
鏡の中には、S系の笑顔をした私。 鏡の縁の猫の目と、私の目が似てる。
小さなエビの飼育セットを覗きこんでいる彼を見つけて、小走りに近寄った。
「これ、買ってあげようか?」 首輪を持っているのに気づいて驚いた顔をしている彼。
「ホワイトデーは、私にこれをプレゼントしてくれるでしょ?」
そう言って、揃いのリードを見せる。
彼の鼓動が高まってくのがわかる。 思考が停止している。 目の焦点がおかしい。 わずかに動いた唇だけど、声は出ていない。
「じゃあ、これで決まりね。」 勝手に決める私。
「まだバレンタインデーじゃないけど、今夜、プレゼントしてあげようか?」
躊躇しながら、目を伏せながら、彼はコクリと頷いた。
prev:
next:



